糖尿病網膜症とは?
糖尿病網膜症について
糖尿病網膜症とは、糖尿病が原因で目の中の網膜という組織が障害を受け視力が低下する病気です。網膜とは、目の中に入ってきた光を刺激として受け取り脳への視神経に伝達する組織でカメラでいうとフィルムのはたらきをしています。
糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経症と並んで、糖尿病の三大合併症といわれます。定期的な検診と早期の治療を行えば病気の進行を抑えることができます。
しかし実際にはまだまだ正しい情報が普及しておらず、日本の中途失明原因の代表的な病気です。
糖尿病網膜症の症状は、病気の進行とともに変化します。
糖尿病網膜症の症状
初期には自覚症状がありません。
糖尿病発症後、数年から10年くらいで糖尿病網膜症を発症しますが、初期には症状はあまりありません。自覚症状を感じたときには、網膜症がかなり進行していることがほとんどです。
ある程度網膜症が進むと、視野の中に煙の煤のようなものや、蚊のような小さな虫が飛んでいるように見えるいわゆる飛蚊症が現れる硝子体出血や、網膜で出血が起こると視野に黒いカーテンがかかったような感じがします。
また網膜の中心にあり、ものを見るのに最も重要な「黄斑」という部分に病変が及ぶと、急激な視力低下や、歪み、物が小さく見えるような症状をもたらします(黄斑浮腫:図1)。さらに網膜症がすすむと網膜剥離を起こすことがあり(牽引性網膜剥離:図2)、この場合も視野欠損や視力が低下します。
図1 糖尿病黄斑浮腫
- 網膜の中心部分(黄斑部)に近い毛細血管から血液成分が漏れて、黄斑部に水分が溜まり、網膜が腫れます(浮腫)。そして、視力が低下します。
図2 糖尿病網膜症による網膜剥離(牽引性網膜剥離)
- 糖尿病網膜症が重症になると、硝子体という眼内のゼリー状の物質を土台にして増殖膜が作られる。この膜が網膜を引っ張り(牽引し)網膜剥離を起こす。
主な治療法について
糖尿病網膜症は、一度進行してしまうと完全に治すことのできない病気です。
治療は、症状の悪化を防いだり、緩やかにするために行われます。
- 初期:糖尿病自体の治療と同様、血糖(血液中の糖分量)をコントロールすることが重要です。
- 中期:新生血管の発生を防ぐために、レーザーで網膜を焼くレーザー光凝固術(図3)が行われます。また、視力低下や歪みなどをもたらす黄斑浮腫に対して、ステロイドや抗VEGF薬の眼球への注射を行います。
- 末期:難治性の黄斑浮腫や、硝子体出血及び網膜剥離に対して外科治療などが行われます。
(1)血糖コントロール
原因となる糖尿病を改善しないと、網膜症に対してどのような治療を行っても、また同じ病変が起きてきてしまいます(再燃)。
特に、初期の単純糖尿病網膜症の段階であれば、血糖コントロールをしっかり行うことで網膜症の進行をある程度食い止めることができます。
(2)網膜光凝固術
単純糖尿病網膜症よりも病状が進んで場合、新生血管の発生を抑えるためにレーザーを照射する網膜光凝固術を行います(図3)。新生血管は、網膜の虚血部分にできてくるため、虚血部分をレーザーで凝固します。病変部の広がりに応じて、網膜の一部に照射する「局所網膜光凝固術」と、黄斑を除く網膜全体を凝固する「汎網膜光凝固術」があります。
通常、1回の照射時間は約15分で、汎網膜光凝固の場合、外来で4~5回に分けて行います。
網膜光凝固術は網膜症の進行を抑え、失明を防ぐためには必要な治療です。ただし、病気になる前の網膜の状態や視力に戻るわけではありません。施行後に黄斑浮腫が発生し視力が低下したり、視野が狭くなったりする可能性もあります。
図3 網膜光凝固(レーザー)
レーザーは点眼の局所麻酔で行います。角膜の表面にコンタクトレンズを乗せ、そのレンズを通して網膜にレーザーを照射します。
視力・視野に関わる黄斑部を除いた全領域を、約4回に分けてレーザーを行います。黄色のスポットがレーザーの瘢痕。
(3)硝子体手術(図4)
光凝固術をおこなっても網膜症が進行していく場合、出血や網膜剥離で視力が低下した場合は、硝子体手術が行われます。手術は通常、局所麻酔で行います。糖尿病黄斑浮腫でも手術が行われることがあります。
手術は通常、眼球に小さな孔を開けて、眼球内を照らすライト、手術器具、眼球の圧力(形)を保つための灌流液や空気を注入する器具を入れます(図4a)。出血によって濁ってしまった硝子体(図4a)や、出血や牽引性網膜剥離を起こしている増殖膜を丁寧に除去します(図4b)。網膜剥離が起こっている場合は、眼内に空気やガス、シリコーンオイルを入れて、網膜を再接着させます。
しかし、この治療も視力を元の状態まで回復させることや、網膜を健康な状態に戻すことはできません。糖尿病黄斑浮腫の場合は術後の浮腫、視力の回復には半年から一年という長期間かかります。
図4 糖尿病網膜症に対する硝子体手術
黒目の縁(角膜輪部)から約3mmのところに0.5mmくらいの穴を開け、器具を出し入れして手術を行います。
硝子体に混じった出血は、硝子体と一緒に吸引・切除します。
網膜上に張った増殖膜は、カッターという器具や、剪刀(セントウ)というハサミのような器具で切除・除去します。
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医師からのメッセージ
糖尿病患者さんの実に6割以上の方に白内障があり、3割以上の方に糖尿病網膜症がみられます。しかも、糖尿病網膜症は中途失明の原因の第2位で、毎年3000人以上が失明しています。
しかし、糖尿病網膜症が発症しても、その進行を遅らせることができますし、重篤な状態になる前であれば治療が有効です。
早い段階で網膜症を発見できれば、治療もそれだけ簡単に済み、治療の効果も上がります。糖尿病網膜症では、早期発見・早期治療が何よりも大切です。
糖尿病と診断されたら必ず眼科を受診しましょう。